本研究は免疫調節細胞をex vivoにて誘導し、従来使用されている免疫抑制剤を用いることなく免疫寛容状態を誘導・維持する方法を確立するところにある。その臨床応用の第1段階として、まずラットを用いた臓器移植モデルの開発を行った。このラット臓器移植モデルはすべてマイクロサージャリーによってなされるため、顕微鏡下での超微小血管・神経吻合技術の獲得が必須である。実際にはラットの浅腹壁動静脈(径0.5ミリ)を血管茎とする遊離皮弁の移植モデルや、ラットの大腿を中央部で切断後、骨、血管、神経、筋肉を顕微鏡下に吻合する四肢移植モデルを開発し、ほぼ完全にこれを生着させることに成功した。平成14年、15年と近交系ラット作成のため継代繁殖を行ってきたが、継代ごとに繁殖能力が低下し、近交系ラット作成は不可能となった。このような状況と時間的制約から免疫寛容誘導レシピエントラットのリンパ球をin vivoで培養する当初の実験系をサスペンドせざるを得なかった。我々は新たにラット睾丸移植モデルを開発し、グラフトの内分泌機能と精子形成能を検討した。それは雄性成熟LEWラットの睾丸を精巣上体および精管とともに精巣動静脈を血管茎として摘出。レシピエントの雄性成熟LEWラットに対して、まず除睾術を行う。その後レシピエントの浅腹壁動静脈と精巣動静脈を吻合する。ついでレシピエントの精管を腹腔内から腹直筋を貫通させ鼠径部の皮下に誘導し、ドナーの精管と端々吻合を行う。移植睾丸は鼠径部の皮下に留置するものである。結果、移植睾丸からのテストステロン分泌と睾丸内精子形成が認められた。1971年Sun Leeらが開発した睾丸移植術は大血管系を用いる同所性移植であり、我々の開発した移植法は超微小血管吻合術を応用することで、大血管を犠牲にすることなく低侵襲かつ簡便に異所性の移植を可能とするものである。
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