研究概要 |
ラットの坐骨神経と腓腹筋を用い、末梢神経切離および再縫合後に骨格筋に生じる変性と再生過程におけるそれぞれ3種類のカドヘリン(N, M, R)とカテニン(α、β、γ)の発現と局在の推移についてウエスタンブロット法及び免疫蛍光法により検索した。NとR-カドヘリンの発現レベルは、神経切離後、非縫合、縫合両群共に処置後1週目から上昇し、縫合群では9週目までにコントロールのレベルに戻ったが、非縫合群ではレベルの上昇がより長く続き、9週目以降に低下し124週目のN-カドヘリンレベルはコントロール群よりも低かった。M-カドヘリンのレベルは、いずれの群においても、処置後1週目から低下し、非縫合群ではその後もレベルの低下が続き、縫合群では、処置後9週目にはコントロールのレベルに戻った。局在は、いずれのカドヘリンにおいても筋細胞膜に沿って見られ、蛍光の強さはウエスタンブロット法による発現レベルの経時的変化とほぼ一致していた。いずれのカテニンも筋周膜に沿って発現し、αとαN-カテニンは処置後早期には発現レベルの上昇は見られず、4週間日以降に上昇、神経再支配と共に低下した。β-カテニンは、非縫合群では筋の変性が進むにつれ徐々にレベルは低下し、筋周膜に沿った蛍光も消失した。縫合群においては24週目までの間、発現レベルに変化は見られないものの、神経再支配に伴って再び細胞膜に沿って見られるようになった。γ-カテニンは、βカテニンとほぼ同じ動向を示した。これらの結果から、筋の再生や構築に関与すると言われているカドヘリンやカテニンの動向は、再生過程においてそれぞれの分子で異なることが判明した。つまり、これらの蛋白質は神経損傷後の再生過程において、細胞同士の接着をつかさどる一分子として互いに結合することによってのみその役割を果たしているわけではなく、それぞれが単独で何らかの役割を担っている可能性が示唆される。
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