研究概要 |
本年度はヒト歯肉上皮細胞を含む種々の細胞のアポトーシスを中心にして、スーパー抗原とlipopolysaccharide(LPS)によるアポトーシス制御機構を解析した。末梢血単核細胞を用いた実験系では、スーパー抗原(staphylococcal enterotoxin B : SEB)刺激により可溶性Fasリガンド(Fas L)がT細胞より産生され、Fas発現細胞(単球など)のFas/Fas L経路によるアポトーシスが誘導された。また、カスパーゼ8,10,3が順次活性化され、DNAの断片化が起こる結果も得られた。LPSで前処理することにより、このアポトーシスは抑制された。LPSは転写因子として知られるNF-κBの持続的な活性化を誘導し、抗アポトーシス蛋白であるIAPファミリー(XIAP)の合成を促進し、カスパーゼ3の活性を抑制することも示唆された。このことは、NF-κB阻害剤であるPDTCを加えることにより、アポトーシスが増強されることから確かめられた。歯肉上皮細胞のアポトーシスについても現在検討中であるが、同様のアポトーシス制御機構が関与することが期待される。スーパー抗原やLPS刺激によって誘導されるTNF-αやIFN-γなどのサイトカインもアポトーシスに深く関与しており、特にIFN-γはアポトーシス抵抗性を付与すると同時に、カスパーゼ・カスケードを活性化する作用を有することもわかった。 以上の結果より、口腔内に常在する細菌より産生されるスーパー抗原による組織の傷害が、有害菌体成分として知られるLPSによって制御されることが明らかとなり、生体が恒常性を維持するために獲得した巧妙かつ重要な機構であると考えられる。
|