ヒトの歯肉上皮細胞を含む種々の抗原提示細胞のアポトーシスにおけるNF-κBの役割を中心にして、スーパー抗原とlipopolysaccharide(LPS)によるアポトーシス制御機構を解析した。ブドウ球菌が産生する代表的なスーパー抗原として知られるSEBはNF-κBの活性化を誘導し、NF-κB阻害剤であるPDTC前処理によってその活性は阻害された。また、PDTC処理によりSEB誘導アポトーシスは増強された。これらの結果より、SEB刺激はNF-κBの活性化を介したアポトーシス抵抗作用を付与する。また、NF-κBはCD80遺伝子の転写因子であることからアポトーシス抵抗性はCD80発現細胞に現れる。CD80発現抗原提示細胞はT細胞のCD28分子との結合により補助シグナルを伝達する。しかしながら、NF-κBは可溶性Fas ligandを誘導し、アポトーシス促進作用を示すことも明らかとなった。すなわち、スーパー抗原刺激ではアポトーシスが優位に誘導され、炎症性サイトカインの放出を減少させることが考えられた。一方、LPSはスーパー抗原とは異なりNF-κBを持続的に活性化し、抗アポトーシス・タンパクであるXIAPの合成を誘導し、SEB誘導アポトーシスを抑制した。宿主に広範な病変を引き起こす内毒素の存在下では、スーパー抗原によるアポトーシスは抑制され、サイトカインの持続的産生が起こり、病変を悪化させる可能性が示唆された。また、CD80陽性細胞は選択的にアポトーシスを免れる結果、T細胞に過剰なシグナルを伝達し、組織傷害性リンパ球を誘導することにより、病変の成立、進行に関与する。本研究により、スーパー抗原とLPSの複雑なアポトーシス調節作用が明らかとなり、これらの病原因子に対する口腔内免疫応答が今後、重要な研究テーマの1つになるものと考えられる。
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