咀嚼筋感覚、特に筋紡錘以外の感覚受容器からの入力伝達に関与するニューロンの特性を解明するため、ラット咬筋および顔面皮膚に神経トレーサーであるdextran-rhodamine (Rho)を注入して三叉神経節内に存在する綿胞体を逆行性に標識し、それらのニューロンにおけるCGRP(calcitonin gene-related peptide)、SP(substance P)、somatostatin(SOM)の発現、IB4、cholera toxin subunit B(ChTB)に対する結合性を免疫組織学的手法により調べた。また、ATPをアゴニストとする受容体共役型カルシウムイオンチャンネルであり、痛覚受容に関与していることが示唆されているP2X_3受容体の発現を調べた。さらに、咬筋に炎症を惹起して、上記物質の発現の変化を調べた。その結果、咀嚼筋感覚を伝達するニューロンと顔面皮膚の感覚を伝達するニューロンの間で、それらが含有する物質の発現頻度やIB4あるいはChTBに対する親和性などの特性に差異が認められることが明らかとなった。また、Rhoにより三叉神経節内に逆行性に標識された咬筋感覚伝達ニューロン細胞体のうちの38%がP2X_3陽性を示し、それらは小型の細胞体で多く認められた。P2X_3陽性ニューロンは、咬筋感覚伝達ニューロンのうち主に小型の細胞に認められたことから、痛覚受容への関与が示唆された。咬筋に炎症を惹起することによりP2X_3陽性ニューロン数が減少したことから、咬筋の炎症によりその発現が抑制されることが示唆された。以上のように、咀嚼筋感覚伝達ニューロンは顔面皮膚感覚伝達ニューロンとは異なった特性を有し、特に小型のニューロンは痛覚伝達に関わっていることが明らかとなった。
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