Brn-3aは、bcl-2の発現を促進し細胞死を抑制したり、ニューロンの突起の伸長を促進することから、発生途上のニューロンにおいて重要な転写因子であると考えられている。本研究では、Brn-3aのノックアウトマウスにおける知覚ニューロンの分布やそれらのニューロンにおける神経伝達物質などを免疫組織化学により調べ、Brn-3a欠損がどのようなニューロンに細胞死をもたらしたり、どのような遺伝子の発現に影響をするかを調べた。その結果、Brn-3aノックアウトマウスでは痛みを伝達しcalcitonin gene-related peptideを含む中型ニューロンの細胞死が増加することがわかった。この結果からBrn-3aが痛みを伝達する中型の神経細胞の細胞死をコントロールしていることが示唆された。さらに今年度は、特にBrn-3aのノックアウトマウスにおける口腔・顔面などの末梢組織における神経線維や神経終末の分布の変化を調べることにより、Brn-3a欠損がもたらすニューロンの細胞死と末梢における感覚異常との関連性について調べた。その結果、Brn-3aノックアウトマウスでは痛みを伝達する自由神経終末が減少していることがわかった。また、52℃以上の熱に対するセンサーであるvanilloid receptor subtype 1(VRL-1)を含む中型から大型ニューロンが三叉神経節で消失していた。また、触覚や圧覚を伝えるメルケル細胞がヒゲの部分で減少していることも明らかとなった。以上の結果からBrn-3aが痛みや触覚・圧覚を伝える中型から大型の神経細胞の細胞死をコントロールしていることが示唆された。
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