緒言 我々は、血管形成の必須因子である血管内皮増殖因子(VEGF)が破骨細胞前駆細胞の発現するVEGF受容体1(VR1/Flt-1)を介し破骨細胞分化を誘導することを報告した。本研究では、このVEGFの新規機能の骨代謝における生理的活性を解析する目的でVR1のチロシンカイネス領域のノックアウト(VR1TK-/-)マウスを用いた研究を行った。 方法 VEGFにはマクロファージの遊走活性があり、VR1TK-/-マウスではその活性が喪失する。そこでこのマウスの骨組織について破骨細胞を中心とした形態学的、免疫組織化学的観察を行った。骨髄細胞を採取し、M-CSF(破骨細胞分化因子)を欠損する間質系細胞株OP9と共存培養を行い、この培養系にM-CSF他、VEGF_<121>、PlGFの血管形成因子を添加し、破骨細胞形成について検討を行った。さらに、このマウスの卵巣摘出(OVX)を行い骨組織の観察を行った。 結果 VR1TK-/-マウスの骨は正常マウスに比べてやや細く、皮質骨や成長軟骨板が薄いほか、破骨細胞数が約15%減少していることが示された。骨髄細胞とOP9の共存培養に血管形成因子を添加した実験では正常マウスの骨髄細胞培養系ではPlGF、VEGF_<121>のいずれにおいても多数の破骨細胞形成がみられたが、VR1TK-/-マウスのものではPlGFでの破骨細胞形成は極めて少なかった。ところが、VEGF_<121>でも正常マウスの場合の約80%の効率で破骨細胞形成がみられた。OVXを施したVR1TK-/-マウス大腿骨では破骨細胞増加がみられるが、正常マウスのOVXよりその増殖率は低かった。 考察 PlGFはVR1特異的リガンドであることから、マクロファージ同様、破骨細胞形成にVR1のチロシンカイネス領域が必要であることが示された。一方、VEGF_<121>でもVR1TK-/-マウスの骨髄細胞から破骨細胞が誘導されたことから、破骨細胞前駆細胞がVR2を介した分化機構を持っていることが示唆された。また、OVXの実験結果から閉経後骨粗鬆症の破骨細胞増殖にVEGF-VR1系が少なからず関与している可能性が示唆された。
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