成人性歯周疾患は、Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)の感染により発症する難治性の慢性感染症である。最近の研究は、本菌が上皮細胞内に侵入すること、さらに、骨組織に達する深い組織への侵入が認められる。しかし、本菌細胞内侵入による病態の成立や進行機構を検討した報告は少ない。 そこで、口腔上皮細胞KB細胞を用い、P.gingivalisの細胞内侵入が、骨吸収活性を有した炎症性サイトカインIL-6を誘導するか否か検討した。本菌を細胞に作用させるとIL-6が強く誘導された。また、本菌のKB細胞への付着と細胞内侵入は、それぞれ、41kDa線毛と67kDa線毛に司られていることを、それぞれの特異的抗血清を用いて示した。本誘導性IL-6の発現は、抗41kDa線毛抗血清で抑制された。また、その発現は、その線毛前処理で、抑制された。一方、本菌LPSは、その発現を誘導できなかった。また、抗67kDa線毛抗血清で、本菌の細胞内侵入を抑制すると、IL-6の発現は、著明に抑制された。また、本菌の細胞内侵入阻害剤MDC、ouabain、colchicine、nocodazoleは、本菌誘導性IL-6を、著明に抑制した。これらの結果から、P.gingivalisの細胞内侵入が、KB細胞のIL-6を強く誘導することが明らかとなった。さらに、その情報伝達機構について検討したところ、本菌の誘導作用は、MAP kinaseの一つであるp38の阻害剤SB202190により著明に抑制された。他のMAP kinase阻害剤PB98059とSP600125はその様な阻害作用を示さなかった。また、NFκ-Bの関与も、ほとんど無いことを確認した。このことから、P.gingivalisの細胞内侵入誘導性IL-6の情報伝達機構には、p38が関与していることが示された。また、P.gingivalisが、骨芽細胞のODF/RANKLを誘導することも確認している。
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