研究概要 |
バイオフィルム形成に影響を及ぼす齲蝕細菌表層蛋白質を解析するために,本年度は齲蝕細菌表層蛋白質の細胞表層への結合を触媒している酵素"ソーターゼ(SrtA)"の遺伝子解析を行い,それをもとにSrtA欠損変異株を作成し,この変異株における表層蛋白質の膜局在性の変化が齲蝕細菌の歯面付着に与える影響を調べた.被験菌にはヒトの主要な齲蝕細菌であるStreptococus mutansを用い,そのソーターゼ遺伝子(srtA)をPCRで増幅しクローニング後,その全塩基配列を決定した.その結果,SrtAをコードする遺伝子の読み枠は741塩基対で246アミノ酸からなり,その分子量は27,481で等電点は10.1を示した.つぎに,この塩基配列をもとにSrtA変異株をsrtA遺伝子の相同組換えによる挿入不活化法により作成した.このSrtA変異株と野生株の細胞表層および培養上清中のタンパク質のSDS-PAGE分析パターンを比較したところ,分子量200kDaと75kDaの2本のバンドが新たにSrtA変異株の培養上清中に検出された.この2つのバンドは特異抗体を用いてウェスタンプロット解析により,それぞれ表層蛋白抗原(PAc,200kDa)とグルカン結合蛋白質(GbpC)であることを明らかにした.さらに,SrtA変異株はデキストラン依存性凝集能とショ糖非依存性の壁付着能を消失していることが明らかになった.これらの結果は,PAcとGbpCはSrtAによって細胞壁に結合され,プラークバイオフィルム形成に関与していることを示唆した.この現象はsrtA遺伝子の挿入不活化のみならずSrtAの阻害によっても期待できることから,SrtAは齲蝕予防の新たな標的として有用な酵素であると推測された.また,ここで決定したsrtA遺伝子の全塩基配列はDDBJ(日本DNAデータバンク)に登録した(登録番号:AB089932).
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