血管内皮は恒常的な環境下ではケモカインと接着分子によりリンパ球ホーミングを調節し、炎症時にはいわゆる炎症性サイトカイン、ケモカインを産生し、局所生体防御を能動的に調節する。我々はこれまでに歯周病原細菌の一つであるPrevotella nigrescensの産生するexopolysaccharide(EPS)が白血球抵抗因子として働き、膿瘍形成に重要な役割を果たしていることを報告した。本研究では、EPSの血管内皮に与える影響を検討することを主眼としているが、まず粘膜免疫系において、常在菌叢の形成が粘膜を被覆する上皮側にいかなる細胞を誘導するのか、すなわち常在菌が恒常的にいかに細胞誘導を行っているかを、germ-free-conventionalized-rat modelを用いて、パイエル板リンパ濾胞関連上皮において検討した。結果、germ-free環境下では上皮内にはT細胞、B細胞は誘導されず、樹状細胞を主体とする未熟抗原提示細胞(CD80/86^-)が生後5ケ月を経ても存在することが明らかとなった。この細胞集団は常在菌叢が形成されると1〜4週のうちに見られなくなり、代わってB細胞、T細胞が上皮内に遊走を開始することが明らかとなった。無菌状態から常在菌叢形成初期には未成熟樹状細胞が抗原捕捉を行い、菌叢確立後はB細胞がこれに加わるシステムの存在が示唆された。口腔常在菌のひとつであるPrevotella nigrescensの臨床分離株のいくつかは多量のEPSを産生しバイオフィルムを形成し、マウスにおける膿瘍形成能が非常に強い。そこでEPS刺激時の培養ヒト単球、ヒト臍帯静脈内皮細胞の炎症性サイトカイン、ケモカイン産生をしらべたところ、EPSはこれら因子をほとんど誘導しないことが明かとなった。LPS刺激下の培養細胞にEPSを加えると、LPSの刺激は減弱された。おそらくPrevotella nigrescensはEPSによりバイオフィルムを形成し、免疫細胞の監視機構をかいくぐり宿主に定着するものと考えられる。次年度ではこれら免疫系への影響が、LPSレセプターのマスキングによるものか詳細に検討する予定である。
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