研究概要 |
生体の様々な生理過程にサーカディアンリズム(概日性リズム、日周リズム)が存在することが報告されている。動物やヒトにおける歯や骨の形成、骨吸収機構にも明瞭なサーカディアンリズムが存在する。我々は、これまでの研究から硬組織系細胞には、Per, BMAL, Clockなどの時計遺伝子の発現が見られ、Clockに変異を起こしたマウス(Clock mouse)の硬組織形成リズム(象牙質形成リズム)にはサーカディアンリズムの破綻が生じていること、サーカディアンリズムの主時計とみなされる視交叉上核の完全破壊は、行動のサーカディアンリズムのみならず硬組織形成(象牙質形成)のサーカディアンリズムを完全に消失させること等について示してきた。本報告においては、ラットやマウスの硬組織形成細胞(象牙芽細胞、骨芽細胞、エナメル芽細胞、軟骨細胞)や破骨細胞機能には、明期(動物の睡眠期)に高く暗期(動物の活動期)に低い振幅の大きなサーカディアンリズムが観察できること、破骨細胞機能のサーカディアンリズム発現には、血清中の液性因子が重要な役割を果していること等を、ラットを用いた研究から実験的に示し、それらの臨床的、基礎的な意義について考察した。一方、生理的な状態において硬組織の代謝系にサーカディアンリズムが存在することを薬理学的に解釈すると、硬組織の代謝系を標的とする薬物の効果にも、サーカディアンリズムの位相(投与時刻)に依存した量的・質的な違いが生じる可能性が予測できる。本報告では、ビスホスホネート連続投与による破骨細胞機能の持続的な抑制は、暗期に比べ明期において明瞭に観察できること、破骨細胞を標的とするカルシトニンの効果が、骨吸収系が活発となる明期において最も高く暗期には低いこと(未発表)等を示し、時間薬理学な観点から、薬物投与時刻や観察時刻の重要性について報告した。
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