研究概要 |
咀嚼や嚥下などの下顎運動はそのリズムが中枢によって制御されているいわゆる半自動性の運動であり,これらのリズムは脳幹で形成されることが分かっている.しかしながら,実際の機能時に口腔内の状況は刻一刻と変化し,その変化に応じた円滑な運動の遂行を行うためには,末梢からのフィードバックによって運動神経系を含めた中枢神経系の神経活動の変調が行われなければならない.末梢からの入力を受け,さらに運動神経系に直接影響を与えるプレモーターニューロンの脳幹内での局在とその神経生理学的特徴を調べる目的で,今年度は三叉神経運動核に投射するプレモーターニューロンのうち,とくに同側もしくは反対側咬筋(閉口筋)運動核に投射するものについての検索を行った.その結果,咬筋運動核周囲からこの核へは多くのニューロンが投射していることが判明した.それらは三叉神経上域,三叉神経間域,三叉神経脊髄路核吻側亜核などである.これらのいくつかはひとつのニューロンが同側および反対側に同時に投射するといういわゆる両側性の投射を示した.また,記録したニューロンの半数近くは上顎,下顎の口腔内機械受容器の求心性神経である眼窩下神経,下歯槽神経からの入力を受けていた.さらに16%のニューロンは咬筋神経からの入力を受けており,これらのすべては下顎の牽引に応じる発火を示したことから咬筋の筋紡錘からの入力を受けることが示唆された.しかしながら機械受容器と筋紡錘の両方からの入力を受けるものは存在しなかった.プレモーターニューロンレベルにおいても末梢からの情報の収束は特殊化されていることが強く示唆された.これらのニューロンがリズム性顎運動の発生に直接関わるか否かについては未だ不明であり今後の研究に期待するものであるが,顎機能時に末梢からの情報を直接運動神経に伝えることは明らかであり,その機能を明らかにすることは大いに興味のもたれるところである.
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