研究概要 |
【目的】 閉口筋の活動は咀嚼する食物の物理的性状によって大きく変化する。一方、開口筋の活動は食物の性状によらず比較的一定しており、開口筋と閉口筋は機能的に異なっている。そこで本研究は、両筋の機能的相違に対応して開口筋運動ニューロン(JOMN)と閉口筋運動ニューロン(JCMN)の膜特性にも違いがあるかどうか調べるために、パッチクランプ法を用いて両運動ニューロンの性質を比較・検討した。実験には、あらかじめ咬筋あるいは顎二腹筋にrhodaminを注入した生後2〜5日齢のラットを用いて,ハロセンで麻酔後断頭し厚さ250μmの切片を作製した。蛍光顕微鏡観察下にて咬筋あるいは顎二腹筋運動ニューロンを視覚的に同定し,近赤外光を用いた微分干渉観察下にてホールセル記録を行い、以下の結果を得た。 【結果・考察】 JOMNはJCMNに比べて、持続が中等度のスパイク後過分極電位(mAHP)の振幅と持続時間が有意に大であり、mAHPのtail currentのdecay time constantも有意に大であった。また、持続1秒の脱分極パルス通電によつて誘発された連続スパイク発射パタンを比較すると、単位脱分極あたりのスパイク発射頻度の増加率は、mAHPの差異に対応してJCMNの方が有意に大であった。この差は、apaminを投与してmAHPを抑制すると消失した。一方、経過の早いスパイク後過分極電位(fAHP)の振幅は、JCMNの方がJOMNよりも大であった。さらに、連続スパイク発射後のスパイク後過分極電位(sAHP)の振幅はJCMNの方が小さかった。以上の結果から、JOMNとJCMNのスパイク後過分極電位は異なっており、開口筋および閉口筋の機能的特性の差異を生み出す一つの要因であると考えられる。
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