私たちは、TIMP-1およびTIMP-2による細胞増殖活性がベル型の濃度依存性を示すことを明らかにしてきた。このTIMP濃度による細胞増殖のオン・オフ調節機構を解明するために、 1.ヒトTIMP-1遺伝子を導入したヒト線維肉腫(HT1080)細胞を培養したところ、培養液中のTIMP-1濃度が40ng/ml近傍に達すると、細胞増殖が抑制され、さらに、100ng/ml近傍に達すると、TIMP-1の産生が抑制されることが明らかになった。 2.TIMP-1遺伝子を導入したHT1080細胞を最初から〜160ng/mlのTIMP-1を含む培養液中で培養したところ、細胞はTIMP-1も産生しないし、増殖も示さなかった。しかし、培養液をTIMP-1を含まないD-MEM培地に交換すると、TIMP-1の発現開始に呼応して細胞増殖が見られた。これらの結果は、培養液中のTIMP-1濃度がTIMP-1の産生とそれによる細胞増殖を調節していることを強く示唆してしいる。 3.さらに、MEK3/6およびp38はともに低濃度(〜25ng/ml)のTIMP-1によって強く活性化されたが、高濃度(〜100ng/ml以上)のTIMP-1によっては抑制された。これに対し、ERKは調べた限りの濃度範囲(25〜150ng/ml)のTIMP-1によって濃度に無関係に活性化された。 4.以上、HT1080細胞自らが産生したTIMP-1がオートクリン機構によって増殖を促進していること、そして、このTIMP-1の産生と細胞増殖活性は、細胞辺縁のTIMP-1濃度によって調節されていること、そして、TIMP-1はERKの活性化を介して細胞増殖を促進しているが、高濃度(>100ng/ml)になると、MEK3/6およびp38が活性化されて、増殖を抑制する可能性が明らかとなった。
|