平成14年度の研究において、吸収状態のマウス破骨細胞ではRANKL(receptor activator of NF-kB ligand)の急性投与により、H^+負荷からの細胞内pH([pH]_i)回復時間を早め、H^+放出活性を促進することが明らかとなった。一方、これらの結果は一過性酸性化からの回復過程を測定しH^+放出活性を評価しているので、人工的にH^+負荷をしない生理的定常状態での破骨細胞のH^+放出活性を評価する必要がある。そこで、まず最初に、共存培養系を用いないで採集できるラット破骨細胞をリン酸カルシウムでコートしたカバーグラス上で培養し、吸収窩を形成している多核細胞(吸収型)と、カバーグラス上で培養し吸収してない多核細胞(移動型)を破骨細胞として実験に用いた。実験はこれらの細胞にpH指示薬であるBCECF/AMを負荷し、種々の薬物投与による定常状態[pH]_i変化を測定しH^+放出能を評価した。その結果、吸収型にはNa^+/H^+交換輸送体(NHE)と液胞性H^+ポンプ(V-ATPase)によるH^+放出能が存在し、移動型にはNHEのみによるH^+放出能が存在した。従って、破骨細胞が移動状態から吸収状態になるに従いV-ATPaseが発現し、このために吸収型のH^+放出能は移動型より活性化され、これに伴って吸収状態では[pH]_iが高く維持され、H^+放出活性が変化することが分かった。こういった結果を踏まえ、吸収状態のマウス破骨細胞を再度用い、定常状態の[pH]、に対するRANKLの作用を検討した。その結果、RANKLの急性投与によりの定常状態の[pH]_iが可逆的に低下し、また、この作用はRANKLのデコイレセプターであるOPG(osteoprotegerin)により阻害された。従って、RANKLは吸収状態の破骨細胞に対しては定常状態[pH]_iを酸性化する作用があることが分かった。この結果は前年度のRANKLがH^+負荷からの細胞内pH([pH]_i)回復時間を早める作用と合わせると解釈が非常に難しいが、一つの可能性として、RANKLは破骨細胞のH^+放出活性能を促進すると共に、細胞内でのH^+産生能も亢進させる作用を有することが考えられる。しかしながら、これらの機序を解明するためには、今後、吸収状態と非吸収状態での作用や細胞内情報伝達をさらに詳しく検討していく必要がある。さらにヒトへの応用を考えるために、ヒト抜去乳歯から採集したヒト破歯細胞(破骨細胞様細胞)を用いRANKLの作用を調べたが、マウスの破骨細胞と同様に骨吸収を促進することが明らかとなった。この結果は既に論文として外国雑誌に掲載されている。従って、ヒト破骨細胞においてもRANKLはH^+放出活性を促進する可能性があり、このヒト破骨細胞様細胞の実験系が有用であることが示唆された。 また、平成15年度は実験器具や試薬を滅菌するために高圧蒸気滅菌器を交付申請予定額内で設備備品として購入し研究に活用した。
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