破骨細胞はH^+輸送体を発現しH^+放出により骨基質の無機成分を溶解する。従来、このH^+放出には液胞型H^+ポンプ(V-ATPase)が主に関与すると考えられているが、機能的にこのH^+放出にH^+ポンプが関与しているのかを動的に捕らえた知見は非常に乏しいのが現状であり、これらのH^+放出機構の細胞内シグナルによる調節機序に関しては殆ど不明である。そこで、本研究におきて破骨細胞の分化・延命・活性化を調節する因子であるRANKL(receptor activator of NF-kB ligand)に注目し、RANKLが破骨細胞のH^+放出をどの様に調節するかを検討した。吸収状態のマウス破骨細胞でRANKLの急性投与により、H^+負荷からの細胞内pH([pH]_i)回復時間を早め、H^+放出活性を促進することが明らかとなった。また、吸収型の破骨細胞にはNa^+/H^+交換輸送体(NHE)と液胞性H^+ポンプ(V-ATPase)によるH^+放出能が存在し、移動型にはNHEのみによるH^+放出能が存在した。従って、破骨細胞が移動状態から吸収状態になるに従いV-ATPaseが発現し、このために吸収型のH^+放出能は移動型より活性化され、これに伴って吸収状態では[pH]_iが高く維持され、H^+放出活性が変化することが分かった。次に、RANKLの急性投与によりの定常状態の[pH]_iが可逆的に低下し、この作用RANKLのデコイレセプターであるOPG(osteoprotegerin)により阻害された。従って、RANKLは吸収状態の破骨細胞に対しては定常状態[pH]_iを酸性化する作用があることが分かった。 以上より可RANKLは破骨細胞のH^+放出活性能を促進すると共に、細胞内でのH^+産生能も亢進させる作用を有することが示唆された。さらにヒトへの応用を考えるために、ヒト抜去乳歯から採集したヒト破歯細胞(破骨細胞様細胞)を用いRANKLの作用を調べたが、マウスの破骨細胞と同様に骨吸収を促進することが明らかとなり、ヒト破骨細胞様細胞の実験系が有用であることも示唆された。
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