研究概要 |
本研究では口腔癌を対象として多分割照射を行い治療成績の改善と晩期有害事象の発生頻度を明らかにするとともに,その低減の可能性を明らかにすることを目的としている。昨年度に続いて新たな症例がわずかに追加されたが,本年度はこれまで数年にわたって行ってきた多分割照射治療症例を再評価することにも重点を置き,個々の症例の詳細な経時的変化を観察する手法も取り入れた。この結果,腫瘍が制御できた症例では,歯および歯周組織を起点とする骨露出が頻繁に生じていること,発生時期は治療後半年から数年に及ぶこと,原因は経過観察中の外科的処置や補物による為害性だけではなく特に原因が見当たらないような場合でも歯の周囲から生じている症例のあること,しばしば口腔衛生状態が良好ではない症例にみられることが判明した。経過を追ったエックス線フィルムと臨床所見を対比し詳細に観察すると,歯周囲の歯槽骨は広汎に活性を失ったのちそれを被っている歯肉に穿孔が生じて骨露出が生じ,結果として骨壊死が露見する,という臨床経過の存在することが窺われた。骨露出が現れた段階では既に多孔性の壊死骨表面となっていることから,歯肉穿孔の現れる前にどこかを起点に骨は不活化している。最も可能性の考えられる部位は歯肉溝に存在する上皮付着と推測できる。上皮付着は細胞のturn-overが10日と言われているので,多分割照射によって必ず影響を受け,構造上の侵襲が生じると推測できる。上皮付着が破壊されると,人工的に歯周炎あるいは歯周膿瘍という局所の炎症が惹起され歯槽骨吸収が生じるが,放射線治療に伴う骨内の寡細胞化,毛細血管の減少などの変化は骨破壊を促進し周辺に拡大する。この結果,突然広い範囲にわたる骨壊死が歯肉穿孔をきっかけに明らかになる,という経過が推測できた(日本放射線腫瘍学会第16回学術大会で発表)。この仮鋭は実験的証明が必要ではあるが,臨床的には口腔衛生の改善が急務であることが示唆された。
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