研究概要 |
齲蝕細菌(Streptococcus mutans)のソーターゼが支配する表層蛋白質のバイオフィルム感染への影響を調べる目的で、まず初めにS.mutans 109cのソーターゼ遺伝子(srtA)を解析後、S.mutans 109cのsrtA欠損変異株を作成し、ソーターゼが支配する表層蛋白質の同定(ウェスタンブロット解析による)とsrtA遺伝子の不活化によるプラークバイオフィルム形成への影響を調べた。研究初年度は、S.mutans 109cのsrtA遺伝子のクローニングとその全塩基配列を決定し、その配列をもとにsrtA欠損変異株を作成した。srtA遺伝子の塩基配列は遺伝子バンクに登録した(accession no. AB089932)。次年度(最終年度)はS.mutansの野生株(109c)とsrtA欠損変異株の表層蛋白質の局在性の変化を比較し、ソーターゼ支配する蛋白質を同定した。その結果、ソーターゼは少なくとも3つの齲蝕原性蛋白質、すなわち表層蛋白抗原(PAc : surface protein antigen),グルカン結合蛋白質(GbpC : glucan-binding protein),デキストラナーゼ(Dex : dextranase)の細胞壁への結合を支配していることを明らかにした。同時に、srtA欠損変異株ではPAc, GbpC, Dexの生理作用(歯面初期付着、グルカン依存性凝集、グルカンの性状変化)が消失し、プラークバイオフィルム形成が抑制されていることが明らかになった。これらの結果は、ソーターゼ遺伝子の不活化または活性阻害は、S.mutansのプラークバイオフィルム形成の抑制とその後の齲蝕予防に有用であることを示唆した。
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