研究概要 |
[目的]これまでに我々は向精神薬による唾液分泌抑制機序を検索してきた。in vitro, in vivoの実験結果から唾液分泌機序において重要な役割を果たしている唾液腺細胞内イノシトールリン脂質代謝系の抑制が向精神薬による唾液分泌抑制に関与していることを示した。今年度は、唾液分泌に関与するイノシトールリン脂質代謝系におけるGTP結合蛋白質(Gqタイプ)とホスホリパーゼC(β_3タイプ:PLC-β_3)の蛋白量レベルに対する抗不安薬ジアゼパム(DZP)の影響を調べた。 [実験方法](1)生後7-8週齢のWistar系雄性ラットを用いた。(2)DZP投与は急性投与と連続投与で行った。急性投与:DZP(5mg/kg, i.p.)を投与し、2時間後に耳下腺、顎下腺、大脳皮質を摘出した。連続投与:DZP(0.2 or 0.4mg/kg, i.p.)を1日2回、3-10日間連続投与後、各組織を摘出した。(3)摘出した組織から遠心分離操作により細胞膜を調製した。(4)細胞膜蛋白質をSDSゲル電気泳動後、Gq, PLC-β_3に対する抗体を用いてWestern blotを行い各蛋白量を分析した。 [結果および考察]DZPの急性投与では耳下腺、顎下腺、大脳皮質のいずれにおいてもGq, PLC-β_3量に顕著な変化は認められなかった。DZP(0.8mg/kg/day, i.p.)の10日間連続投与により耳下腺、顎下腺、大脳皮質のPLC-β_3量に顕著な減少が認められた。しかし、Gq量には顕著な変化は認められなかった。この結果はDZPの連続投与により唾液腺内のイノシトールリン脂質代謝系が影響されることを示しており、DZPによる唾液分泌抑制と関連していると考えられた。
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