研究概要 |
ドパミンD1-様受容体はcAMP増加させる受容体と定義されているが、近年、IP3の生成を促進するものも存在することが指摘されている。そこで、cAMP、IP3のマウス顎口腔領域の運動制御に果たす役割について検討した。(1)cAMPアナローグのSp-CAMPS、競合的阻害薬のRp-CAMPSを顎運動に関係が深い線条体に直接注入したところ、対照群と比較して垂直的顎運動(Jv)、舌の突出(Tg)、頭部の運動(Hd)、チャタリング(Ct)、感覚毛の運動(Vb)にはほとんど変化は認められなかったが、水平的顎運動(Jh)の著明な減少が認められた。cAMP系の賦活または抑制はそれ自体では顎口腔領域の運動の誘発には重要でないことが示唆された。また、JhはcAMP作用薬でも拮抗薬でも抑制されたことから、線条体内の神経細胞の賦活または抑制はともに神経系のシステムレベルで結果的にこの運動を抑制している可能性が示唆された。(2)さらにホスホジエステラーゼ阻害薬rolipramを線条体に前投与し、SKF83959を皮下投与したところ、誘発されるJv, Tg, Hdは対照群より増加した。Rolipramにより分解を抑制され、増加したcAMPが、SKF83959の作用を増強した可能性が考えられた。一方、ホスホリパーゼC阻害薬U73122を脳室に前投与し、SKF83959を皮下投与したところ、Jv, Tg, Hd, Vbの発現は抑制された。U73122によりIP3の生成が抑制され、SKF83959の作用が抑制された可能性が示唆された。これらのことより、cAMPはSKF83959の顎運動誘発作用に対して促進的に働き、IP3も促進的に働いている可能性が示唆された。 (1)の実験の結果と(2)のそれとの間にある不一致については次年度の課題の一つとしたい。
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