ラット顎下腺に2%DMBAオリーブ油溶液を含ませた歯科用ボンディングスポンジを埋入して顎下腺腫瘍モデルを作成した。発癌剤埋入後、12週を経過した組織は角化傾向のある扁平上皮に類似した腫瘍組織を主体とし、導管様構造を伴った腺扁平上皮癌であった。 次いで、この発癌した組織と正常ラット顎下腺とのmRNA発現量をmembrane DNA Array(Atlas^<TM> Rat1.2クロンテック社)を用いて比較検討した。 発癌により、発現量が有意に増加した遺伝子は173種、減少したものは164種であった。 特に発現量の増加が著しい遺伝子として、異常なkeratinocyteの発現に関与するepidermal fatty acid-binding proteinや、炎症性変化に関係するmicroglobulin、annexin Iが認められた。以前より、本実験系で変異が示唆されていたc-H-rasについても、そのm-RNA発現量は発癌により有意に増加しており、さらに、種々のras類似遺伝子の増加も認められた。rasの下流に存在し細胞増殖に働く、Raf-MEK-MRK系においては、A-raf、MEK5、MAPKK1、MAPKK2のmRNAの増加が認められ、別系列のrac-α、JNK3のm-RNAも増加していた。核内転写因子としてc-myc、c-junのmRNAの増加が認められ、cyclin B1、D1およびPCNAのmRNAの増加も認められた。 これらの結果よりc-H-rasの変異が本腫瘍の発現に重要な関係を持つと考えられた。今後これら発現量の変化した遺伝子産物の局在検索やPCR法などによる追試を行なうとともに、ラットよりも正確に遺伝子情報がわかっているマウスを使っての追試も行なう予定である。
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