ラット顎下腺に2%DMBAオリーブ油溶液を含ませた歯科用ボンディングスポンジを埋入して顎下腺腫瘍モデルを作成した。発癌剤埋入後、12週を経過した組織は角化傾向のある扁平上皮に類似した腫瘍組織を主体とし、導管様構造を伴った腺扁平上皮癌であった。 正常ラット顎下腺と発癌組織各5例についてmRNA発現量をmembrane DNA Array(Atlas^<TM> Rat1.2 クロンテック社)を用いて比較検討し、発現量が2倍以上でバックグランド値(4)以上の差異がある場合に有意差があるとした。 全症例を通じて発癌により、発現量が有意に増加した遺伝子は48種、減少したものは25種であった。特に発現量の増加が著しい遺伝子として、異常なkeratinocyteの発現に関与するepidermal fatty acid-binding proteinや、ストレスタンパクであるheat shock proteinsが認められた。また、βアクチンなどのHouse Keeping Geneにおいても発癌組織ににおける発現増加が認められた。本発癌実験系において、通常の増殖系においてras発現増加をもたらす、増殖因子の発現増加は認められなかったが、c-H-rasおよびras類似遺伝子の増加も認められた。また、rasの下流に存在し細胞増殖に働く、Raf-MEK-MRK系などにおいては、すべての症例ではないが種々のシグナル伝達系タンパク質のmRNAが増加し、核内転写因子としてc-myc、c-junのmRNAの増加が認められ、cyclin B1、D1およびPCNAのmRNAの増加も認められた。これらの結果からc-H-rasのm-RNA発現量の増加と、exon1 cordon12におけるグアニンからアデニンへの点変異が発癌の重要な役割を果たすと考えられた。しかし、並行して進めている口腔扁平上皮癌におけるDNA Array検索では特定の癌関連遺伝子のかかわりが確認できず、本発癌実験系とは異なった、多様な遺伝子変化を示すものと考えられた。
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