研究概要 |
歯周病は局所の炎症性骨吸収を起こす歯科領域における代表的感染症の一つである.我々はこれまでに歯周炎関連細菌のひとつであるActinobacillus actinomycetemcomitans(A.a.)のリポ多糖(LPS)や莢膜多糖抗原(CP)の生物学的活性を調べてきた.その結果CPは,IL-1やPGE_2を介した骨吸収活性や破骨細胞形成能をLPSと同様に有していた.一方,歯周炎関連細菌に対する血清抗体価が早期発症型歯周炎(EOP)患者で有意に高いことが報告されており,我々はこのメカニズムについて調べた.EOP患者の単球は,無刺激で培養すると健常者の単球とは異なり長い紡錘形の細胞に変化する.この細胞はCD11c表面抗原を多数有し,幼弱なリンパ球の増殖能を亢進する樹状細胞(DC cell)で,さらに免疫グロブリン量が細胞数に依存して増加することが明らかとなった.すなわちEOP患者の単球系の細胞がCPやLPSなどの刺激を受けた場合,DC cellに分化しやすく,この細胞が患者の血清抗体価を亢進していることを発見した.これらの結果,EOPの病態解明および診断法の確立に非常に有益であった(H14年度).つぎに菌体構成成分のサイトカイン産生に与える影響を調べたところ,b型のCP刺激により線維芽細胞からのIL-6とIL-8の産生抑制が認められた(H15年度). また,細菌由来のLPS,CPおよび宿主の過剰なIL-6の産生が病的な歯槽骨吸収を起こすことが報告されている.我々は,破骨細胞が産生し,オートクラインに骨吸収の抑制に働く,Osteoclast Inhibitory Peptide-1(OIP-1)の抑制機序について検討を行った.OIP-1のC領域のペプチドを合成し,OIP-1と同様の破骨細胞の抑制活性が認められた.さらに,OIP-1のC領域ペプチドの活性は,抗OIP-1抗体により特異的に阻止された.以上より,OIP-1のC領域が活性部位であることが証明された.このC領域ペプチドは,抗原性が少なく,化学的に合成できることより薬剤としての応用が期待される.上記のように,今回の研究で早期発症型歯周病の病因解明,歯周病の治療薬について非常に有意義な知見が得られ歯科医学の発展に大いに寄与した.
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