研究概要 |
白血球の血管壁への接着は炎症病変形成の重要なステップである.慢性炎症では,主として単球やTリンパ球が関与することが明らかにされている.白血球を病巣へ遊走させ血管壁への接着を促す際には種々の分子が関与するが,そのひとつであるフラクタルカインは,単球やTリンパ球の遊走・接着の両過程に関わることが証明されたケモカインである.フラクタルカインはin vitroでは活性化刺激を受けた血管内皮細胞で発現されるが,実際の病変組織における発現の検討はこれまでほとんどなされていない.そこで,慢性炎症モデルとしてアポEノックアウトマウスの大動脈起始部の動脈硬化病変の凍結切片を作成し,フラクタルカインおよびその受容体であるCX_3CR1の発現について,免疫組織学的に検討した.フラクタルカインの細胞外ドメインに対する抗体は,他の抗原をも認識する可能性があることが報告されていたので,染色にはフラクタルカインの細胞内ドメインに対する抗体を用いた.その結果,正常マウスの血管にはフラクタルカインはまったく発現されていなかったのに対して,アポEノックアウトマウスの進行した動脈硬化病変では,肥厚した内膜組織にフラクタルカインの染色が確認された.CX_3CR1はフラクタルカイン同様,肥厚した内膜に発現がみられたが,フラクタルカインが発現されている部位とは一致しなかった.同じ病変を血管内皮,マクロファージ,平滑筋に特異的な抗体で染色して検討すると,フラクタルカインおよび受容体は,主としてマクロファージが多くみられる部位に多く発現がみられた.これらのことから,フラクタルカインが動脈硬化病変の形成初期のみならず,病変が進展する際にも重要な役割を果たしている可能性が示唆され,炎症の慢性化に関与している可能性が示唆された.この結果をもとに,次年度は歯科領域の慢性炎症として歯周炎を対象として検討を進めて行きたいと考えている.
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