研究概要 |
炎症の成立に際して起こる一連の反応には,白血球と血管の相互作用が重要な位置を占める.その過程は大別して細胞の引き寄せと接着から成るが,最近同定されたケモカインであるフラクタルカインは,この両方の役割を1分子で行うことが可能である.フラクタルカインは白血球のうち,単球やTリンパ球に作用することが知られているが,これらの細胞はいずれも慢性炎症にみられるという特徴を有していることから,研究では慢性炎症の病変成立におけるフラクタルカインの関与を検討してきた.昨年度,動脈硬化病変においてフラクタルカインとその受容体であるCX_3CR1の発現が見られることを確認したが,今年度は歯科領域の慢性疾患である歯周病を対象として,免疫病理組織学的な検討を行った.その結果,ヒト歯肉粘膜では肉眼的に正常な歯周組織の血管内皮に恒常的にもフラクタルカインの発現がみられ,歯周病病変ではその発現が明らかに増強していた.この結果は,口腔内という外界との接点にあたる部位においては,一見正常と思われる歯肉組織も炎症の準備状態にあることを示唆すると同時に,昨年度の動脈硬化に続いて,歯周病における炎症病変の成立・増悪にもフラクタルカインが関与していることを示すものである.今回の基盤研究により,慢性炎症におけるフラクタルカインの関与を具体的に明らかにすることができた.動脈硬化のモデル動物であるアポEノックアウトマウスの病変は,フラクタルカインないしその受容体のノックアウトによって軽減するという結果が報告されているが,実験的炎症モデルの動物におけるフラクタルカインの役割についても,LPS投与マウスにあらかじめ抗フラクタルカイン中和抗体を投与するという方法で,その効果を検討して行きたいと考えている.
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