研究概要 |
本研究では、生体組織の構成単位であるアミノ酸を骨格とする分子構造の異なる数種のモノマーを新規に合成して、歯牙硬組織へのレジン系材料の接着促進効果を調べ、接着有効性と分子構造との関連を検討した。まず、アスパラギン酸とアクリルクロライドからN-acryloyl aspartic acid(N-AAsp)を合成した。N-AAspは水に25wt%まで溶解し、この水溶液をセルフエッチングプライマーとして使用したところ、20wt%水溶液が象牙質、エナメル質へのレジンの接着に有用で、引張り接着強さはともに16MPaを示した。次で、カルボキシル基を1つもつグリシンのアクリルモノマー(N-acryloy Glycine ; N-AGly)とカルボキシル基を2つもつN-AAspとで象牙質接着有効性を検討したところ、N-AAspはN-AGlyよりも有意に接着に有効であった。これは、セルフエッチングプライマーは酸性であることが必要であるが、カルボキシル基を2つもつモノマーは解離していないカルボキシル基が存在する確立が1つしかもたないモノマーに比べて高く、それによってコラーゲンと相互作用を示す可能性が考えられた。さらに、N-AAspと同じく2つのカルボキシル基を有するが主鎖の構造は同じで側鎖の構造のみ異なるN-acryloyl Glutamic acid(N-AGlu)を合成し,N-AAspと象牙質接着効果を比較検討した。その結果,研削象牙質への接着強さでは,N-AGlu処理は効果がなく,N-AAsp処理は効果が認められた。一方,スミヤー層除去後にN-AGlu処理するとN-AAsp処理と同等の効果があった。以上より研削象牙質では、カルボキシル基が1つのN-AGlyよりも2つ有するN-AAspの方が、また2つ有してもpKaが低く解離しやすいN-AAspが有利であるが,ある程度の脱灰前処理を行えば、コラーゲンとの相互作用に寄与する非解離状態のカルボキシル基が存在しやすいN-AGluが有利となると考えられた。 本研究より、これらのアミノ酸骨格モノマーは象牙質と合成有機高分子材料との接合材としての機能発揮が期待できることおよびカルボキシル基を2つもち、その解離のバランスが歯質接着性の発現に重要であることが示唆された。
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