研究概要 |
本研究の目的は,顎関節症の筋症状に対して理学療法およびスプリント療法が有効か否かの科学的根拠を咬筋の組織血流状態解析の観点から明らかにすることである.本年度は,このうち理学療法の咬筋筋組織血流動態に対する改善効果を検討した. 1.方法 被験者は,顎口腔系に異常が認められない健常者とした.咬筋組織血流量の測定には,3波長型近赤外分光血流計を用い,酸素飽和度(StO2),総ヘモグロビン量,オキシヘモグロビン量,デオキシヘモグロビン量を解析した.理学療法は,20分間の温罨法および30分間の低周波療法(マイオモニター)とした.血流測定時期は,各療法開始前,終了直後,終了後5,10,15,20分経過時とした. 2.結果 温罨法では,温め後において,StO2,総ヘモグロビン量,オキシヘモグロビン量に有意な増加が認められた.一方,デオキシヘモグロビン量では有意な変化は認められなかった.マイオモニター後においては,何れの測定項目に関しても有意な変化は認められなかった. 3.考察 温罨法の効果には,組織の温度を上昇させることによる血管の拡張,血行の増大があると言われている.一方,温罨法では熱が皮膚表面から1cm以上の深さには到達せず,表層を厚い脂肪組織が覆っているような筋組織に対しては,効果はあまり期待できないという考えもある.今回の結果から,温罨法が深部筋組織の血流に影響を及ぼすことが明らかになり,しかもその効果としては,単なる血流量の増加だけではなく,StO2改善の効果もある可能性が示された.マイオモニターでは,電気刺激により筋緊張を緩和する作用のほかに,咀嚼筋の不随意的な反復収縮による血行の増大効果があるとする考えもある.しかし,今回の結果からは明らかな血流の改善を示すデータは得られなかった.このことから,血行の改善に関しては,マイオモニターより温罨法の方が有効であると考えられた.
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