軟質裏装材には、弾性の喪失、細菌の繁殖、色調の安定性、レジン床との接着強さなどに問題が残っている。軟質裏装材の劣化に関しては、長期にわたる水中や着色液への浸漬やサーマルサイクルなどを行って評価されていることが多い。しかし、口腔内ではさらに咀嚼中に咬合力が作用し、軟質裏装材の劣化を促進している可能性が考えられるが、このような荷重の影響を考慮した研究は少ない。そこで本研究では、Coe-soft、Super-soft、Molloplast-B、Sofreliner、Clearfitの5つの軟質裏装材について咬合力を模した繰り返し荷重をかけ、繰り返し荷重の粘弾性、吸収性および溶解性への影響に関する調査を行った。作製した各材料の試料を、電磁力式試験機(MMT-101 NB-10)を用い、37℃水中にて片振りサイン波、最大圧力196kPa、最小圧力19.6kPa、周期2Hzとした繰り返し荷重をかけた。荷重時間は、1.75、3.5、7.5、16.5時間とした。 繰り返し荷重は主に軟質裏装材の高さの変化と遅延変形に影響を与えた。また、繰り返し荷重により吸収量および溶解量は増加した。繰り返し荷重中、試料は圧縮と回復を繰り返している。圧縮の過程において未重合モノマーや可塑剤が排除され、回復の過程では水が吸収されたり、その過程中に分子構造が変化している可能性もある。これらの過程が軟質裏装材の劣化を促進し、粘弾性的性質、特に遅延変形に影響を与えたと考えられる。繰り返し荷重により遅延変形が減少し、表面積当たりの吸水量も増加している。このことから咬合力により劣化が進み、応力分散による機能の低下が示唆された。 従って、繰り返し荷重試験は軟質裏装材の粘弾性的性質の耐久性試験として有用であると言える。しかし、繰り返しと荷重時間のどちらの影響なのか今後の研究で明らかにする必要がある。
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