研究概要 |
実験目的:純チタンの臨床応用については多くの報告があるが,歯磨き剤によるブラッシングがチタン表面の性状に及ぼす影響はよくわかっていない.本研究ではチタンのブラッシング面と削除片の化学的性状を精査した.実験方法:第2種チタンインゴットを鋳造して得た板状試験片を鏡面研磨して歯ブラシ摩耗試験に供した.ここでは2種類の歯磨き剤,つまり,微細な非晶質シリカの砥粒を含むもの(ETL)と,結晶質のリン酸水素カルシウム二水塩の比較的に粗大で角張った砥粒を含むもの(NSA)とをそれぞれ,異なるpHのスラリー(15g/30ml)に調整して用いた.ブラッシング圧は250gで,120回/分の速さで350400回の往復ブラッシングを行った.これは2分間のブラッシングを毎日2回2年間続けたことに相当する.なお,半分の回数ごとに新しい歯ブラシに交換した.分析にはX線マイクロアナライザー(EPMA)とX線光電子分光(XPS)装置を用いた.実験結果:XPS分析によると,ETLでブラッシングした面では,Siが不動態酸化皮膜の表層にのみ存在し,シリコンチタン酸塩を形成していることが示唆された.NSAでブラッシングした面のCaとPはかなり深くからも検出され,表面層ではCaとPを含む複雑なチタン酸塩を形成することが示唆された.ブラッシングに使われた歯磨剤スラリー中には,0.2〜0.3〓mの微細なチタン削除片が遊離した形で,また砥粒に付着した形で見いだされた.それらチタンからのTi_<2p3/2>ピークは弱くて広範囲にブロードしていたが,TiO_2のほかにそれより高い結合エネルギーを有する化学種も存在することを示唆した.結論:歯磨き剤に含まれる砥粒との相互作用により,ブラッシングされたチタン表面は化学的に改質される.ただ,スラリーpHの低下はこの改質を抑制する方向に働く.
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