研究概要 |
本研究の目的は,FGF-2の存在下で増殖させた骨髄幹細胞を,PRPを担体として顎骨に適用し,広範囲の骨欠損を修復できるか否かを形態学的に明らかにして,インプラント周囲の顎堤再生法につなげることにある。本年度は、多血小板血漿(PRP)を併用したインプラント周囲骨組織の構造や形成時期を、イヌを用いた動物実験により病理組織学的、組織形態計測学的に検索した。 実験動物にはビーグル犬を用い、全身麻酔下にて下顎両側臼歯群を抜歯した。抜歯3ヵ月後,同部頬側のみに骨欠損(高さ4mm,幅10mm)を2か所ずつ形成,同欠損中央部に純チタン製スクリューインプラント(直径3.75mm,長さ7mm)をスレッドが部分的に欠損部中に露出した状態で埋入した.インプラント周囲の骨欠損部を,血餅、PRP、自家骨および自家骨+PRPのいずれかで満たした後,粘膜骨膜弁で緊密に縫合した.埋入10週後,欠損部の非脱灰研磨標本を作製,光顕観察するとともに,欠損部に再生した骨組織について組織形態計測を行った.光顕観察において,自家骨を用いた2群,すなわち自家骨群および自家骨+PRP群では,自家骨を用いない血餅群およびPRP群と比較して骨欠損部内に占める骨組織の割合は大きかった。とくに自家骨+PRP群においては,露出させたスレッド部はほとんど全例において骨組織により覆われていた。再生骨組織の面積は,血餅群,PRP群,自家骨群,自家骨+PRP群でそれぞれ0.61±0.56mm2,0.85±0.58mm2,1.43±0.82mm2,1.39±0.51mm2であり,PRPの有無による差はほとんどみられなかった。骨の高さと同様,自家骨を用いた2群と自家骨を用いない2群を比較すると,前者が大きい傾向を示したものの,有意差はなかった。しかし、骨接触率に関しては,PRP群が血餅群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。 以上より、PRP添加による再生骨量の有意な増加はみられなかったものの、再生骨組織をインプラント表面に誘導するように働いて骨接触率を増加させる可能性が示された。これらの結果とPRPを担体とした骨髄幹細胞の培養実験結果によって、PRPと幹細胞を用いた新しい顎堤再生法の臨床応用に有用な示唆を得ることが出来た。
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