研究概要 |
セルフエッチングプライマーには各システム特有の機能性モノマーが含まれているものの,その違いが接着能に及ぼす影響についてはほとんど報告されていない。本研究では,異なる機能性モノマーを含有する3種のセルフエッチングシステム,Unifil Bond(UB:ジーシー),Clearfil Linerbond II (CLII:クラレ)およびClearfil Mega Bond(CMB:クラレ)と,それぞれに含まれる機能性モノマー,4-MET, Phenyl-PおよびMDPを用い,形態学的,化学的および力学的に比較検討した。その結果,いずれの接着システムにおいても象牙質との接着界面で厚さ0.5〜1μmのハイブリッド層が形成され,UB, CMBではコラーゲン周囲にアパタイト結晶が散在していることがTEM観察より明らかとなった。XPS分析より,今回用いた機能性モノマーでは,MDP>4-MET>Phenyl-Pの順で吸着量が高かった。HApに吸着した4-METはその単体に比べカルボキシル基が低エネルギー側に化学シフトしておりHApと化学吸着していた。Phenyl-P単体のC1sピークはその構造式から得られる理論的なピーク比に近いものの,HAp上のPhenyl-PはC1sピークの形が大きく異なっており,加水分解されたことが明らかとなった。HApに吸着したMDPのC1sピークはMDP単体と大きな違いは認められなかったが,C-OPピークがわずかに低エネルギー側に化学シフトしており,HApに化学吸着していることが示唆された。サーマルサイクル試験後の引張り試験の結果,CLIIは,UB, CMBに比べて引張り接着強さが優位に低下しており,前述の化学分析の結果を裏付けるものとなった。以上より,各セルフエッチングシステムの象牙質接着性は,含まれる機能性モノマーの性能に大きく依存することが示唆された。
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