数年前、パラジウムの高騰により、健康保険に適用されている金銀パラジウム合金の市場価格が保険価格基準を上回る逆ざや現象が生じ、医療コストの上昇を招いた。一方、パラジウムは銀の硫化による変色を防ぐための重要な添加元素であるが、合金の融点の上昇やアレルギーの誘因となることが懸念されている。したがって、固定された組成にこだわることなく、合金の耐食性とアレルギーに対する安全性を保証できる実用的な組成範囲を定めておくことが必要不可欠である。以上のような観点から、従来型の金銀パラジウム合金(パラジウム20%、金12%含む)をベースとして、パラジウム量と生体に安全な金量、それぞれ所定の組成範囲(8.6〜12%および20〜33%)で変化させた合金を作製し、その耐食性と機械的性質について検討した。 1.耐食性試験 1%硫化ナトリウム溶液に24時間浸漬後、生成した合金表面の腐食層の厚さをX線光電子分析装置(XPS)による深さ分析から求めた。その結果、硫化物に由来するSピークが検出され、パラジウム、銅の光電子ピークおよび銀のオージェ電子ピークにケミカルシフトがみられたことから、これら元素による硫化物等の生成が予測された。この硫化に伴う腐食は金およびパラジウム量によるだけでなく銅量によって大きく影響されることが示された。 2.機械的試験 鋳造して得られた棒状(引張試験用)と板状(硬さ試験用)の試料を軟化および硬化熱処理後、両試験を行った。引張強さおよび硬さは市販合金とほぼ同程度で、熱処理硬化性を有していた。銅量と引張強さとの関係について検討したところ、銅量が少なくても銀量によっては十分な強度を有しており、耐食性を改善するため銅量をある程度減少させた合金でも市販合金に相当する機械的性質を有することが明らかとなった。 引き続き合金の溶液中における電気化学的な腐食挙動について詳細に検討を行う予定である。
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