現在、ほぼ固定されている金銀パラジウム合金組成に対して、耐食性とアレルギーに対する安全性を有する実用的な組成範囲を明らかにするため、前年度はパラジウムを減らし、金添加量を増加させた合金について耐硫化性試験を行った。その結果、パラジウム量を減らしても耐硫化性を損ねない金添加量を見出した。また、耐硫化性に及ぼす銅の影響が認められた。 そこで本年度は銅の影響を検討するため、合金組成および熱処理条件により合金表面の銅の濃度分布を変化させ、その耐硫化性を比較した。熱処理条件は(1)大気中700℃加熱による溶体化処理後に酸洗を行った場合、(2)(1)の処理後にアルゴン雰囲気中で再度加熱を行った場合、(3)大気中700℃加熱による溶体化処理後、400℃で時効処理し、酸洗した後に鏡面研磨を行った場合の3条件で、いずれも0.1%硫化ナトリウム溶液に浸漬後の合金表面をXPSにより分析した。 目視観察による浸漬後の合金表面は(1)ではほとんど色調の変化は見られなかったが、(2)および(3)では茶褐色様の被膜が観察された。分析の結果、条件(1)の表面では加熱により酸化された銅酸化物が酸洗により除去されたため、ほとんど銅のピークが見られなかったのに対し、(2)では再加熱による銅元素の内部拡散により、また、(3)では酸洗により組成変化した層が研磨により除去され、バルク組成値に近似することにより銅のピークが観察された。また、硫化による硫黄のピーク強度は(1)に比べ(2)および(3)で高かった。以上の結果から、本系合金の硫化には銅量が大きく影響しており、表面の銅濃度を低下させることにより耐硫化性を改善できることを明らかにした。今後さらに、合金の生物学的性質に関わる合金成分の溶解性について検討を加え、耐食性と生体安全性を有する合金組成範囲を明らかにする。
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