研究概要 |
顎顔面や顎関節の形成を理解することは補綴学的に極めて重要な研究テーマである。近年,器官再生の組織工学的な技術が発展を遂げているが,顎関節の再生に関する技術は全く開発されていないのが現状である。補綴治療を行う際にも顎関節の再生を試みることは重要であると考えられる。 近年,顎顔面の形成を調節している成長因子や転写因子の研究は進展し、頭蓋骨の形態形成には鎖骨頭蓋異骨症の原因とされている転写因子Core Binding Factor A-1(CBFA-1)を欠如している個体では,顎関節が形成されていないことが報告され,CBFA-1は顎関節の形成に不可欠であることが証明された。さらに,in vitroの実験では骨誘導タンパク(BMP)がCBFA4の遺伝子発現を増殖することが示され,BMPはCBFA-1の上流にあることが証明された。 このように顎顔面や顎関節の形成は,様々な成長因子や転写因子が骨や軟骨を形成する幹細胞の分化増殖や細胞外マトリックスの合成の促進および抑制を行うことによって制御されている。 本研究の目的は顎顔面や顎関節の形態形成を制御する因子の遺伝子発現の以下に示したクロストーキングをin situ hybridizationを用いて解析することである。 歯胚の形成においてはCBA-1とBMP-4の局在は一致しており,CBFA-1の遺伝子発現はBMP-4の発現と密接な関係を持ち,歯の形態形成初期から歯根形成期にいたるまで上皮・間葉のsignal伝達物質として作用しているものと考えられた。また,CBFA-1は顎顔面の骨形成において前骨芽細胞から成熟骨芽細胞にいたるまで局在がみられ,骨形成初期から成熟にいたるまでの骨芽細胞の分化に関与すると考えられた。これに対して,BMP-4は前骨芽細胞に強い反応がみられ,おもに骨芽細胞の初期分化に深く関与することが示唆された。さらに,CBFA-1はMeckel軟骨で増殖期や肥大期の軟骨細胞にみられたことから,軟骨細胞の成熟にも関与していることが示唆された。
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