研究概要 |
加熱重合アクリルレジンの亀裂の発生と最も関連性が深い性質は破壊靱性値(K_<IC>)であるが,環境や測定条件によって値が全く異なるため,三点曲げによる予亀裂導入破壊試験法を用い,K_<IC>に及ぼす歪み速度と水による影響を検討して正確なK_<IC>の決定を試みた.試験片は50℃で1週間以上乾燥させ,方向と長さを正確に設定して予亀裂を導入した.乾燥試験片では脆性破壊が予亀裂の先端から進行し,K_<IC>は1.04±0.03から1.31±0.09MPa・m^<1/2>の間で歪み速度とともに緩やかに増加した.吸水試験片では測定中に低速亀裂成長(SCG)が進行していたが,100mm/minのクロスヘッドスピードで零になり,この時の1.05±0.06MPa・m^<1/2>が吸水試験片のK_<IC>として適切であると考えた.更に,この測定結果を用いて安定亀裂成長が進行している時の荷重-変位曲線の非線形破壊エネルギーを無次元荷重-変位汎曲線による方法で解析した結果,塑性エネルギー散逸値は亀裂面を生成するために必要な正味のエネルギーより大きく,亀裂成長に必要な全エネルギーの大きな部分を占めることが分かった.このように,床用レジンの破壊はK_<IC>だけで表すことはできず,割れのメカニズムには非線形性の部分が大きく寄与していることが明らかになった.また,エタノールを用いて亀裂成長させた破断面のFTIRによる解析結果からは,加熱重合レジンが応力下でエタノールと機械化学的な反応を起こして亀裂成長を起こした証拠は得られなかったが,エタノールによる破断面は乾燥あるいは水が存在する場合とは全く異なっており,エタノールのような環境溶液による亀裂成長はメカニズムが全く異なると考えられた.
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