患者一人一人の顎堤に対して最も効果的に軟質裏装材を応用するために、その最適な厚さを設定する際の指標を作ることを目的として、軟質裏装材の厚さの違いによる咀嚼能力や咬合面圧力分布といった臨床評価への影響、および患者の顎堤粘膜厚径との関連性を検討した。 被験者として、本学歯学部附属病院補綴科外来患者の中から、本研究の目的を理解し参加に同意が得られた上下無歯顎者4名(男性1名、女性3名)を選択した。 実験義歯は、まず通報に従って上下全部床義歯を作製した後、下顎全部床義歯については前年度で報告したように粘膜面の軟質裏装材の厚さを1mmと2mmに規定してリライニングできるようにした。 下顎の顎堤粘膜厚径は、超音波粘膜厚径測定器(SDM、Krupp Medizintechnik)を用いて寺倉の方法に準じて計測した。 咀嚼能率は、ピーナッツ3gを20回咀嚼させた後、節分法にて計測した。 咬合バランスや咬合面圧力は、咬合面圧力分布測定システムT-スキャンIIを用いて測定した。以上の測定を軟質裏装材の厚さを1mmと2mmに変えて測定し、厚さの違いによる影響を検討した。 その結果、咀嚼能率と咬合面圧力では個人間で差が大きく、軟質裏装材の厚さの違いによって差はみられなかった。しかし、軟質裏装材の厚さが1mmの場合で3名の被験者が、顎堤頂もしくは顎堤頂相当部と思われる部位で咀嚼時に若干疼痛を訴えた。疼痛を訴えた部位の肉眼的所見に特に異常はみられなかったが、粘膜厚径は0.8〜1.0mmと他の部位に比べて薄かった。厚さが2mmの場合では疼痛を訴えた者はみられなかった。これらのことから、咬合面圧力を垂直に受ける部位では、粘膜が薄い部位は軟質裏装材を厚くする必要があることがわかり、顎堤粘膜厚径が軟質裏装材の厚さを設定する際の指標であることが示唆された。
|