研究概要 |
不適合義歯による口腔への刺激,持続的疼痛や咬合,下顎位などの変化が全身状態と何らかの関連性を持っていると考えられるが,科学的な裏づけを得るにはいたっていない. 本研究は,床義歯に対する何らかの不快症状を待った患者に,義歯の調整,改造,修理などを行い,それらの不快症状を軽減または消失させる処置を行い,その前後の唾液中のストレスホルモンを測定し,不快な義歯とストレスの関連を見出すことである.また新たに義歯を製作する場合はその義歯を製作する過程,義歯装着後のリコール時まで中長期にわたるストレス反応を計測することにより,義歯による慢性的なストレスをも把握することをも目標にした. 講座の医員4名を選び,それぞれ義歯に対して不快症状を訴えて来院した患者8名ずつを割り当てた.同一日の次の時点で唾液の採取(唾液採集容器サリベッティのコットンロールを2分間咀嚼または口腔内に保持した全唾液)を行った.初診時に研究に対する同意を得られた直後,問診直後,治療直前,不快症状を除く治療直後および帰院直前. その結果,初診時のコルチゾール濃度が高く,治療直後と帰院直前には低く,有意の差が認められた.しかしこれは初めて病院外来に来たという一過性の上昇かも知れず,義歯の不快症状によるものかどうかを分離し得なかった. そこで患者に自宅でリラックス時(ほぼ同時刻に3回)の唾液の採取をさせ、来院時のコルチゾール濃度と比較した.不快症状をのぞく治療後と自宅でのコルチゾール濃度には有意差を認めなかったが,個人差が極めて大きかった. 現在までの結果を取りまとめ中であるが、今後さらに被験者を加えること,義歯に対する不快症状の改善による急性的なストレスホルモンの変化のみならず,日を変えて治療が進むに連れどのように変化するかを観察する予定である.
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