研究課題
基盤研究(C)
口腔扁平上皮がんにおけるHIF-1αの発現と臨床病理学的悪性度との関連について検索した。舌扁平上皮がんの約30%にHIF-1αの過剰発現が認められ、HIF-1αの発現と患者の年令、性別、腫瘍の病理組織学的悪性度、臨床病期、浸潤様式、局所再発の有無とは有意な相関は認められなかったが、HIF-1α陽性群は頚部後発転移、遠隔転移が有意に多く、生存率も有意に低かった。このような症例の腫瘍間質における微小血管について検索したところ、HIF-1α陽性群は陰性群と比較して顕著な血管新生が確認され、HIF-1αの発現によりVEGFが活性化され血管新生を惹起したと考えられた。HIF-1aのdominant negative mutantを用いた遺伝子治療の試みを行った。その結果、糖代謝を抑制することで腫瘍原性の低下が認められた。口腔扁平上皮がん由来細胞株KBとCa9.22を用いて、CoCl_2により低酸素・無酸素状態を惹起したところ、Ca9.22細胞でHIF1-αタンパクの明瞭な産生亢進がWestern blottingと免疫染色により認められた。このような細胞株から抽出したRNAを用いてDNAマイクロアレイによる検索を行ったところ、低酸素・HIF-1α発現亢進により、転写活性化あるいは抑制される可能性のあるものとして数十種の遺伝子の候補が明らかになった。その中のpim-1とadrenomedullinに着目し、検索を行った。pim-1は、MuLV発症Tリンパ腫において同定されたがん遺伝子で、N-mycやとc-mycと共同してanti-apoptoticに働くことが知られている。血球系細胞でpim-1が、がん遺伝子としてその腫瘍発生に関与しているとする報告はあるが、固形がんの発生・進展に及ぼすpim-1の影響について検索したものはこれまで報告されていない。舌扁平上皮がんにおけるpim-1の発現を検索した結果、約40%の症例でpim-1は陽性であり、HIF-1αとpim-1の発現は有意に相関した。Pim-1陽性群が陰性郡と比較して有意に臨床的Late stageの症例が多く、腫瘍の増殖活性との関連性が考えられた。さらに遠隔転移に関してもpim-1陽性・陰性症例間でpim-1陽性症例に有意に多い傾向が認められた。Adrenomedullin(AM)は血管拡張作用のあることが知られており、AMを高発現している腫瘍では、周囲に拡張した血管を伴うものが多く、転移との関連性が認められた。
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