加齢によりホメオスターシスを維持する能力が低下するといわれている。このことは循環系においても例外ではなく、高齢者における著しい血圧はよく知られるところである。高齢者の歯科治療においても、術前の血圧は正常範囲であるにもかかわらず、歯科治療開始とともに著しい高血圧状態になることをしばしば経験する。その背景には歯科治療に対する恐怖や不安、あるいは疼痛に対する身体的反応などの存在が考えられる。しかし、若年者ではこのような血圧変動をきたすことはない。従って、この変動の大きさには加齢による循環系制御能力の低下が強く影響していると予測される。 本研究では加齢による循環系制御能力の低下を明らかにするため、循環制御系についてシステム同定を用いた数学モデル推定を行った。70歳以上の高齢者4人と健康成人4人を被験者とした。非侵襲的に測定した心拍および動脈圧信号をそれぞれ入力信号、出力信号とし、ブラックボックスモデリングを行った。しかし、例数の少なさに加えて、解析パラメータの設定や次数の決定などが適切ではなかったため、精度の高い状態方程式を得ることができなかった。システム同定は高いスキルが要求されるといわれているように、その解析パラメータの設定や解析方法の選択には熟練を要する。この点が予想以上に困難であった。今後はパラメータ設定およびシステム同定方法の選択を徹底して行い、より安定した精度の高い状態方程式を算出できるようにする予定である。その上で特に著しい血圧変動を示す高齢者について、その変動に関する解析と予測を行う予定である。
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