研究概要 |
癌細胞が遠隔転移を成立させるには多数の複雑な過程が存在するが,なかでも癌細胞が基底膜基質を分解する過程は脈管内外への細胞移動の過程であり最も重要であると考えられる。我々はこの基底膜基質分解過程に焦点を絞りその分子機構の解析を行ってきた。基底膜基質分解過程をin vitroに再現したフィブロネクチン分解・浸潤モデルにおいて細胞は浸潤を開始の際に突起構造を形成している(浸潤突起-Invadopodia)。本研究において、Invadopodiaを共焦点レーザー顕微鏡で観察し,アクチンファイバーがInvadopodiaに凝集している像を3次元で観察することができた。さらにアクチン再構成を制御している低分子GTP結合蛋白質RhoファミリーのRho, Rac, Cdc42がInvadopodia形成に如何なる影響を及ぼすかを検討した。すなわち,Rho, Rac, Cdc42のdominant active mutantおよびdominant negative mutantを細胞に導入し,その細胞動態を観察したところRac, Cdc42がInvadopodia形成にすなわち癌細胞の基底膜基質分解を制御していることが示された。 一方、基底膜基質分解過程には接着分子および基質分解酵素とくに膜結合型基質分解酵素(MT1-MMPなど)が大きな役割を果たしている。Invadopodia形成に関与していた低分子GTP結合蛋白質のRac, Cdc42が接着分子および基質分解酵素の活性および局在を如何に制御しているかを検討した。その結果,Rac, Cdc42はERM蛋白を介してアクチンと細胞内で結合しているCD44をInvadopodiaへ誘導していることが明らかとなった。そしてInvadopodiaではCD44とMT1-MMPが会合している様子が観察された。 今後はこの低分子GTP結合蛋白の上流および下流のシグナル伝達分子についてさらなる詳細な検討を加えていく予定である。
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