研究概要 |
硬組織移植再生を行うにあたり,感染予防と治癒促進を効率良く行うことは,成否を分ける重要な要因となっている。抗菌ペプチドであるデフェンシンは、非免疫的な生体防御に関係すると報告され,抗菌、抗ウイルス、抗真菌など、幅広い作用が報告されている。しかし,本実験により感染の無いマウスの長管骨の単純骨折部位周囲および骨内に生じた嚢胞にも高濃度のαデフェンシンの発現を認め,βデフェンシンも同様に骨内に生じた嚢胞,マウスに移植した上皮癌細胞などにも発現が認められている。 これまでの多くの研究は生体防御機能ばかりに注目され,デフェンシンの発現が宿主側の細胞に及ぼす影響については,ほとんど注目されてこなかった。本実験から,ヒト由来ケラチノサイト(NHEK)とヒト扁平上皮癌細胞(HSC-4)とを共存培養することでHBD-2が上昇することを明らかにした。また,高濃度なHBD-2(0.01mM)の存在下ではヒト由来ケラチノサイト(NHEK)のDNA合成は影響を受けないが,分裂活性が低下することが明らかになった。これはセルサイクルにおいてS期には影響しないがM期に移行することを阻害する事で分裂活性の低下を引き起こすことが解明された。われわれが以前行った研究より、αおよびβデフェンシンがラット肥満細胞から最も強力であると思われるヒスタミン遊離作用をもつことを報告してきた。 このことから移植等により異なる種類の細胞が接することにより,移植部位でHBD-2の濃度が上昇し,その周囲にヒスタミン遊離による炎症が生じるだけでなく,宿主側の正常細胞の増殖を低下させる可能性が示唆された。 以上のことから、抗菌作用を失わないで細胞の分裂活性に影響を与えない範囲にデフェンシンの発現を調整することができれば,硬組織移植の大きな鍵をにぎることが示唆された。
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