1.ヒト顎下腺由来唾液腺癌細胞(HSG)およびHSG細胞を5-Azacytidineで処理することにより分化誘導され筋上皮細胞の表現形質を持つHSG-AZA1細胞を用いてMaspinの発現を検索した。すなわち、RT-PCRにより、Maspin遺伝子open reading frameの全長を増幅し、塩基配列を検索することにより、これらの細胞がMaspin遺伝子を発現していることを確認した。なお、これらの細胞のMaspin遺伝子は点変異(A 271 G)を有し、コドン66番目のイソロイシンがバリンに置換されていた。Maspin蛋白は、Western blottingにより分子量42kDの単一のバンドとして検出され、HSG細胞とHSG-AZA1細胞におけるMaspinの発現量には、差が見られなかった。また、免疫組織学的染色により、Maspin蛋白は細胞質に局在を認め、核には発現を認めないことを明らかにした。 2.酪酸ナトリウムによりHSG細胞の筋上皮細胞への分化を誘導したが、Maspinの発現量には変化が見られなかった。また、Maspin遺伝子のアンチセンス導入により、HSG細胞のMaspin発現量を低下させたが、酪酸ナトリウムによる分化誘導には影響を及ぼさなかった。1と2の結果より、唾液腺細胞において、筋上皮細胞への分化には、Maspinが関与しないことが示唆された。 3.唾液腺良性腫瘍(多形性腺腫、Warthin腫瘍)において、上皮細胞の細胞質にMaspinの発現を認めた。また、正常唾液腺の筋上皮細胞では、細胞質と核にMaspinの発現を認めたが、多形性腺腫の筋上皮細胞では、核にMaspinの発現を認めた。 唾液腺悪性腫瘍(腺様嚢胞癌、粘表皮癌、管状腺癌)において、Maspinの発現は低下しており、特に、腺様嚢胞癌では発現が見られなかった。この結果より、唾液腺腫瘍においては、悪性化に伴いMaspinの発現が低下することが示唆された。
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