従来、顎関節症は炎症性症状を欠く疾患といわれていたが、顎関節内視鏡の発達により滑膜組織には様々な炎症性変化が起きていることが明らかとなった。組織学的検索や滑液解析でも種々の炎症性因子が上昇していると報告されている。滑膜細胞は滑膜組織の細胞外基質や滑液成分の産生を行っており、関節部の恒常性維持や病態形成に重要な働きを担っている。しかし、顎関節滑膜細胞の細胞分子学レベルでの研究は遅れている。当教室では、ヒト顎関節滑膜細胞の培養系を確立し、その細胞学的諸性質を検討してきた。しかし、機能が明らかにされた生理活性について実証していく従来の方法では限られた情報しか得られない。そこで、本研究ではDNAマイクロアレイ分析を用いて顎関節症の病態遺伝子の検索を行う。インフォームド・コンセントにより同意を得られた顎関節症患者2名および顎関節強直症患者2名の顎関節授動術または内視鏡手術時に滑膜組織を採取した。20%牛胎児血清(FCS)を含むHam7sF12培地を用い、out growth法にて滑膜細胞を得た後、10%FCS含Ham's F12培地にて継代培養を行った。継代数8代まで増やした細胞を実験に供した。Confluentの滑膜細胞にIL-1βを2、4、8時間作用させた後、total RNAをAGPC法にて抽出した。IL-1βを作用させていない細胞からもtotal RNAを抽出した。しかし、DNAマイクロアレイに供するには十分なRNA量を得られなかった。そこで、mRNAをテンプレートとしてPCRによってcDNA量を増幅させるSMART法を行った。SMART法にて増幅したcDNAをCy3、Cy5で蛍光ラベルを行ったところ、DNAマイクロアレイに供するに十分な蛍光ラベルされたcDNAを得ることができた。顎関節は狭小な関節であるため、実験に供するに十分なサンプルをを得ることが困難である。今回、SMART法により、少量のRNA量からでもDNAマイクロアレイが可能となった。
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