本研究の目的は、手術侵襲が及ぼす唾液中分泌型IgAの量的変化を検討することである.手術侵襲によって分泌唾液量は減少し、唾液タンパク濃度が著明に上昇し、この変化はα-アドレナリン受容体が刺激されるために起こる変化であることが示唆されている. 一方、局所免疫に関連する唾液の分泌型IgAは、抑圧されたストレス下ではその濃度が低いことが報告されている.また、手術侵襲は免疫システムにさまざまな変化を及ぼすことが示されており、末梢リンパ球数の減少、ナチュラルキラー活性の減少、免疫グロブリン濃度の減少などが報告されている. 平成14年度は、外科侵襲直後の唾液中IgA濃度の測定をELISAにより測定した(平成14年度研究費にてマイクロプレート吸光度リーダーを備品として購入).外科侵襲は、ICR雄性マウスを用い、ネンブタール全身麻酔下に、腹部正中に皮膚切開を加え、皮下組織を剥離し皮弁を形成した後、ナイロン糸にて皮膚縫合を行った.唾液の採取は術直後にピロカルピン(ムスカリン受容体刺激)を投与し分泌唾液を口腔内よりマイクロピペットにて採取した.コントロール群はネンブタール全身麻酔のみ施し、外科侵襲を与えない動物から唾液を採取した. その結果、IgA濃度はコントロール群(ピロカルピンのみ投与)2497.2±695.0(n=4)、外科侵襲群30207.0±7845.6(n=4)であり、外科侵襲直後にIgA濃度の上昇を認めた.正常マウスにフェニレフリン(α-アドレナリン受容体刺激)を投与した場合もIgA濃度の上昇を認めた{26249.9±3548.6(n=6)}.したがって、外科侵襲直後のIgA上昇は外科侵襲によって交感神経優位になった結果、唾液腺が交感神経によって刺激されたためと推察された.現在外科侵襲後のIgAの経時的変化を検討している.
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