手術侵襲は免疫システムにさまざまな変化を及ぼすことが示されており、末梢リンパ球数の減少、ナチュラルキラー活性の減少、免疫グロブリンの変化などが報告されている.本研究の目的は、手術侵襲が及ぼす粘膜免疫への影響であり、唾液中分泌型IgAの量的変化と唾液腺組織中のIgA産生量の変化ならびにそのメカニズムを検討した. 【方法】(1)外科侵襲と唾液ならびに唾液腺組織の採取:ICR雄性マウスを用い、ネンブタール全身麻酔下に行った.腹部正中に皮膚切開を加え、皮下組織を剥離し皮弁を形成した後、ナイロン糸にて皮膚を縫合した.唾液の採取はピロカルピン(ムスカリン受容体刺激)を投与し分泌唾液を口腔内よりマイクロピペットにて採取した.コントロール群はネンブタール全身麻酔のみ施し、外科侵襲を与えない動物から唾液ならびに唾液腺組織を採取した. (2)唾液中IgA濃度の測定:ELISAによって測定した. (3)顎下腺組織中のIgA mRNAの測定:RT-PCRにより行った. 【結果】唾液中IgA濃度は外科侵襲直後に上昇し、翌日以降正常の値に戻った.この上昇は唾液タンパクあたりのIgA濃度としてみると、侵襲翌日に高い傾向であり、生体防御に関連して働いている可能性が示唆された.顎下腺組織中のIgA mRNA量も唾液中IgA濃度と同様に外科侵襲直後に上昇しでおり、IgAは外科侵襲によって分泌が促進されるとともに産生も促進されていた. 【結論】アドレナリン受容体刺激によって、唾液IgA濃度が上昇すること、外科侵襲によるIgAの分泌と産生は術直後のみに起こり、翌日以降は正常値に戻ることから、IgA上昇は外科侵襲によって交感神経優位になった結果に生じる一時的な唾液分泌細胞の交感神経受容体への刺激のためと推察された.
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