研究概要 |
目的:本調査は,消化器手術を受ける高齢者を対象とし,口腔ケアが術後回復に及ぼす影響について評価することを目的としている。 対象および方法:調査の対象者は消化器手術を受ける60歳から98歳(平均年齢:74.9±7.8歳)の患者で,研究に同意の得られた30名である。等間隔抽出法にてケア介入群と従来管理の対照群とに分けた。介入群ではイソジン含嗽に加え,イソジン含嗽剤によるブラッシング,義歯のブラッシング,および舌清掃を行った。対照群に対してはイソジン含嗽のみを行った。肺雑音の有無,咽頭部の細菌同定数,揮発性硫化物の濃度,等について術前から術後5日目までの変化状況を介入群と対照群で比較した。 結果および考察:介入群と対照群で年齢,疾患分布に有意な差は認められなかった。肺雑音の確認できた人の割合は,介入群では術前6.6%,術後13.0%と6.4%の増加であったのに対し,対照群では術前0%であったものが術後には26.6%に増加した(p<0.05,fisherの直接確率)。咽頭部における一人平均の細菌同定数は,対照群では術前,3.64±1.34種類,術後,3.50±1.74種類と手術前後での変化が無いのに対し,介入群では術前3.08±0.95種類が術後5日では2.62±0.65種類と減少した。介入群における差は統計学的に有意であった(p<0.05,t検定)。揮発性硫化物濃度は介入群で低下傾向が認められ,methyl mercaptanでは,対照群および介入群における変化量は,それぞれ0.40±1.72,-1.10±2.30(ng/10ml)で差は有意であった(p<0.05,t検定)。これらの結果は,消化器手術を受ける高齢者の周術期における口腔ケアが,口腔,咽頭部の細菌数の減少および呼吸器症状の軽減に影響することを示している。今後例数を増やす中でさらに関連性を評価していく予定である。
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