研究概要 |
口腔ケアの全身状態への影響に関する文献的検討を行った。手術を受ける高齢者は.大きな侵襲をうけ,身体的にも精神的にもストレスにさらされる。特に,術後急性期には口腔乾燥も起きやすく,口腔細菌の増加を招きやすい。そして,口腔ケアを実施することで,咽頭部の細菌数が減少すると伴に,口腔内の揮発性硫化物濃度の減少することが報告されていた。また,呼吸器系への影響も考えられ,この点を踏まえ,平成14,15年度で実施したデータを整理した。解析結果について,共同研究者を交え評価した。その結果、術後急性期の高齢者に口腔清浄を主体とした口腔ケアを実施することにより,咽頭部細菌の種類の減少,および口腔内の揮発性硫化物成分濃度の低下が認められた。口腔内における揮発性硫黄化合物の生成には嫌気性菌が関与していることから揮発性硫化物濃度は口腔内の細菌数を反映していると考えられる。舌苔中にも揮発性硫黄化合物産生菌が存在し,舌苔付着量と口腔内気体成分の関連も明らかにされてきている。本調査結果は,口腔清掃を主体とした口腔ケアの実施により,口腔および咽頭部の細菌が質・量の両面から有意に改善したことを示している。さらに,肺雑音について,対照群では術後肺雑音のある人が増加しているのに対し,介入群では,増加は認められず,その差は統計学的に有意であった。通常,手術後は術中の処置のために気道内分泌物が上昇する傾向がある。留置中の消化管チューブの違和感から嘔吐をきたしたり,術後の腹部症状から消化液の逆流などもみられる。また,全身の抵抗力の低下から腸内にいる細菌が上部消化器系まで逆行し易いことも知られている。術後,対照群での有意な肺雑音ありの着の増加はそれらの影響と考えられる。 本調査から,消化器手術を受ける高齢者の周術期における口腔ケアが,口腔,咽頭部の細菌数の減少および呼吸器症状の軽減に影響することが明らかになった。
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