本研究では、まず、S.mutansの血清型(c、e、f)をPCR反応にて特定するために不可欠と思われる、血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖形成に関与するグルコシルトランスフエラーゼ遺伝子のクローニングを行い、S.mutans Xc株(血清型c)のグルコース側鎖形成に関与している領域を特定した。存在する5つのORFをXcにおいて挿入失活したところ、2つの遺伝子(rgpHとrgpl)が側鎖形成に関与していることが明らかとなった。次に、S.mutans血清型eおよびfにおけるグルコース側鎖の転移に関与する領域のクローニングを試みた。Xc株の糖鎖抗原合成遺伝子群の解析結果に基づき設計したプライマーを用いて、S.mutans LM7株(血清型e)およびMT6219株(血清型f)の染色体DNAからグルコース側鎖の転移に関与する遺伝子群をPCRにより増幅した。各血清型の側鎖合成領域にはXc株で5個、LM7株で4個、MT6219株で3個のORFが存在し、これらの領域を異なる血清型間で置き換えたところ、血清型の変化が認められた。さらに、血清型特異配列を選び、合成されるDNA断片が315〜726bpになるようにプライマーを設計して、精製した染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った結果、3つの血清型を同定することができた。さらに、3歳7ヶ月から4歳7ヶ月までの幼児198名について、う蝕の歯面別診査の結果とPCRによるS.mutansの血清型分布との関係について調べたところ、198名の幼児のS.mutansの血清型分布はc型が84.8%、e型が13.3%、f型が1.9%であった。血清型分布とdfsとの関係については、単独感染児のdfsは5.58 ± 0.6、混合感染児のdfsは11.27±2.97であり、混合感染児の方が単一感染児に比べて、う蝕経験が有意に高かった。
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