研究概要 |
不正咬合者の顎運動と咀嚼筋活動のタイミングとの関係,また,安静時に口唇の過活動を示すいわゆる無力性口唇を有する患者の咀嚼時の口唇や咀嚼筋の活動などの顎口腔機能に及ぼす影響を検討した.通常,口唇を軽く閉鎖して咀嚼を行うが,無力性口唇を有する対象では安静時のみならず咀嚼時にも口唇を離開する可能性がある.口唇を閉鎖,あるいは離開して咀嚼を行った時の口腔周囲軟組織と咀嚼筋の筋活動および顎運動を終日記録筋電計,および通常の表面筋電計,ナソヘキサグラム,およびビデオグラムを利用して記録し,口唇の閉鎖機能がこれらの筋活動に及ぼす影響を口唇と顎運動および咀嚼筋活動との協調性,すなわち咀嚼のリズム,タイミングの関係を検討した.平成14年度は口腔周囲軟組織の機能不全を有する患者の治療前について行った. 被験者37名(平均年齢21.8±6.7歳)において,ホルター型筋電計を用いシールドルーム内にて安静時,唾眠時の左右咬筋,下口唇の筋活動を計測した.また,口唇を閉鎖した状態と離開した状態でガムの自由咀嚼を行い15ストロークを解析した.さらに,安静時の口唇閉鎖時と離開時の筋活動をもとに被験者をincompetent lip群(以下IL群:20名)とcompetent lip群(以下CL群:17名)に分類し,下口唇の平均活動電位,咬筋の活動持続時間,顎顔面形態を2群間でt検定にて比較した.さらに口唇閉鎖時と離開時,咬筋収縮時と弛緩時のオトガイ筋の平均活動電位をt検定にて比較した.その結果,無力性口唇を有する被験者では,安静時に限らず,咀嚼時の下口唇の筋活動を上昇させ,下口唇の緊張を伴う口唇閉鎖により咬筋の筋活動のリズムに影響を及ぼしていることが示唆された.また,無力性口唇には骨格と軟組織の不調和が関与しており,咀嚼に伴う顎位の変化に軟組織が順応しにくいためにオトガイ筋の緊張を伴って咀嚼を行うことが示唆された.
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