研究概要 |
糖尿病患者は,歯周疾患の発症率が高く,重症であることから,糖尿病は歯周疾患のリスク因子として重要視されてきた。一方,重症な歯周炎に罹患している糖尿病患者は血糖コントロールが悪化することや合併症が糖尿病に悪影響を及ぼしていることも近年明らかになりつつある。さらに,歯周疾患を治療することにより,糖尿病の血糖コントロールが改善されるとの報告もあるが,いまだに確固たるコンセンサスは得られていないし,歯周疾患が糖尿病に及ぼすメカニズムの詳細は不明である。 今年度の研究では,2型糖尿病患者における歯周疾患の有病状況,ならびに歯周病学的検査と糖尿病の内科的検査結果の相互関係について、さらに検討した。被験者は,内科を受診している2型糖尿病患者46名(平均年齢60.7±9.3歳)で,過去に歯周治療を受けたことがない者とした。糖尿病に関しては,HbAlc,空腹時血糖値,空腹時インスリン濃度,インスリン抵抗性(HOMA-R),および体格指数(BMI)を測定した。歯周病学的検査では,現在歯数,プロービングポケット深さ(PPD),プロービング時の出血(BOP),および歯槽骨吸収度を調べ,平成11年歯科疾患実態調査と比較した。糖尿病および歯周疾患の双方に関与すると考えられるパラメーターとして,血清中の腫瘍壊死因子(TNF)-α,および高感度C反応性タンパク(hs-CRP)の濃度をELISA法により測定した。 ほとんどの被験者は,内科的に血糖コントロールされており,肥満度も低かった。HOMA-Rは,BMI, TNF-αおよびhs-CRPと有意な相関関係が認められた。歯科疾患実態調査と比較して,現在歯数はどの年代もほぼ同数であったが,PPDが6mm以上の歯を有する者の割合が高いことが認められた。血糖値およびHOMA-Rは,いずれの歯周病学的検査結果とも相関しなかったが,糖尿病の有病期間は,平均PPD, PPDが4mm以上の歯の割合,BOP,および歯槽骨吸収度との間に有意な相関関係が認められた。これらの結果より,糖尿病患者では,糖尿病発症早期から歯周疾患の予防および治療を行なっていくことが重要であると考えられた。
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